要点
- 2025年の英・ノッティンガム大学の研究は、パンデミック期を過ごした人の脳年齢(MRI+AIで推定)が平均5.5カ月“年上に見える”ことを報告。感染していない人でも同様の傾向があり、特に高齢者・男性・社会的に不利な層で強かったとされます。なお、認知成績の低下は感染者でのみ有意でした。これは“良い意味の発達”ではなく、ストレスや生活変化が脳に刻まれた可能性を示します。Nature+1ノッティンガム大学
なぜ「脳が年上に見える」のか
パンデミックは、外出や運動の減少、社会的孤立、睡眠の乱れ、メンタル不調、失業や収入不安など環境ストレスの総和をもたらしました。脳画像データでは、こうした要因が感染の有無を超えて構造的な“加齢様の変化”と結びついたと解釈されます。とはいえ、変化は平均値であり、**生活を整えることで可塑的(戻りうる)**である可能性も示されています。NatureCIDRAP
脳を守る7つの習慣(科学的根拠つき)
1) 有酸素×筋トレを“少しずつ・習慣的に”
中強度の有酸素運動(速歩、サイクリング等)と週2回の筋トレは、認知機能や脳体積の維持に寄与します。体力に合わせて短時間でも継続することがコツ。フィットネスが高い人ほど脳年齢ギャップ(Brain-PAD)が若いという報告もあります。PubMedNature
目安:合計で週150分の中強度有酸素+週2回の筋トレ(自重可)。体調に不安があれば医療者に相談を。
2) “まとめて”変える:FINGER型(食事・運動・認知トレ・血管リスク管理)
フィンランドのFINGER試験は、食事・運動・認知トレ・血管リスク管理を包括的に行うことで、高齢のリスク群における認知機能低下の抑制を示しました。単発より総合介入が効きやすいことがポイント。各国展開(WORLD-WIDE FINGERS)も進んでいます。ランセット+1PMC
3) 聴力のチェック&介入
難聴は修正可能なリスク。大規模ランダム化試験ACHIEVEでは、リスクの高い高齢者において補聴介入が3年間の認知低下を有意に抑制しました(全体解析では差なしだが、事前規定の層別で効果)。聞こえに不安があれば、早めの聴力検査と対処を。PubMedAchieve Study
4) 食事:MIND/地中海食“寄り”でOK(完璧を目指さない)
ベリー・葉物・豆・魚・全粒・オリーブ油・ナッツ等を日常に増やす。3年RCTでは主要評価で有意差なしも、観察研究では認知低下リスクの低下との関連が繰り返し示されています。“完全”より“継続”。PMC神経学会
5) 睡眠リズムの固定(7時間以上を目安)
成人は1日7時間以上が推奨。就寝・起床時刻をそろえる、朝の光を浴びる、カフェインは午後控える——といった基本をまず整えることが近道です。PMC
6) つながりを切らさない(孤立の回避)
孤独・社会的孤立は認知症の修正可能なリスクの一つ。家族・友人・地域コミュニティ・オンラインの場でもよいので、定期的な交流予定を入れましょう。PMC
7) 血管リスクの“地味な”管理を続ける
高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙・肥満・視力の未矯正などは、最新のLancet Commissionでもリスクとして整理されています。家庭血圧の記録、定期受診、禁煙支援など、地味でも効く一手を積み重ねてください。ランセットAlzheimer Europe
1週間ミニ・プラン(無理なく始める版)
- 月:20〜30分の速歩。夕食は主食を全粒に変更。
- 火:自重筋トレ(スクワット・かかと上げ・腕立て壁押し各10回×2セット)。23時就寝を固定。
- 水:家族や友人と10分でいいので通話/メッセージ。ナッツを一握り追加。
- 木:20〜30分のサイクリングor速歩。夜はベリー+ヨーグルト。
- 金:筋トレday2。お風呂後のストレッチ5分。
- 土:市場/公園へ歩いて買い物。魚料理を取り入れる。
- 日:睡眠リズムを崩さない(起床時刻キープ)。次週の交流予定を1つ入れる。
(※持病がある方、抗凝固薬・抗てんかん薬などを服用中の方は、開始前に主治医へ相談を)
ストレス対策の基本セット
- メンタル衛生:ニュース接触時間を決める/呼吸法(4秒吸う→6秒吐く×3分)/日記で感情の言語化。
- 集中の筋トレ:5〜10分のマインドフルネスを朝または昼休みに。
- 目と耳の休息:1時間に1回、20-20-20(20分ごとに20秒、6m先を見る)。
こうした“環境の整え”は、パンデミック由来のストレス反応を鎮め、脳年齢の可塑性を取り戻す土台になります。Nature
よくある疑問Q&A
Q1.「5.5カ月若返らせる」ことは可能?
A. 研究は平均的な推定値で、個人差があります。運動や多面的介入で脳年齢指標が改善した報告も増えていますが、即効の魔法ではなく“生活の総合点”でじわじわ効く、と捉えるのが現実的です。ランセットNature
Q2. 食事は何から始める?
A. 毎日1つ置き換えがコツ。菓子パン→全粒パン、バター→オリーブ油、肉中心→魚+豆、白米→雑穀や麦のように“足し算”で。神経学会
Q3. 睡眠が短いけど昼寝で補える?
A. まず夜間を7時間以上に近づける。昼寝は20〜30分まで・15時以前に。夜の寝つきが悪くなるなら昼寝は控えめに。PMC
セルフチェック(週に一度)
- 運動:有酸素(分)/筋トレ(回)をメモ
- 食事:今週「魚・豆・葉物・ベリー・全粒」を何回食べた?
- 睡眠:平均就床・起床時刻、昼寝の有無
- 交流:1回以上、人とつながる時間を持てた?
- 聴こえ:テレビ音量UPや聞き返しの増加は?(あれば受診)
- 血圧・体重:家庭血圧と体重を同じ条件で記録
まとめ
- 「脳老化5.5カ月加速」は、**ストレスと環境変化が脳に残した平均的な“跡”**を示した重要な警鐘です。感染していなくても構造的変化は観察されましたが、認知成績の低下は感染者で有意。だからこそ、生活の“総合点”を上げることが最善の対策です。Nature
- 運動+食事+睡眠+つながり+聴力+血管ケアを、完璧ではなくできる範囲で積み上げる。その積み重ねが、脳の可塑性を味方にします。ランセットPubMedPMC
参考(主要ソース)
- 脳年齢の加速:Nature Communications(2025)/Nottingham大学発表/Natureニュース解説。Nature+1ノッティンガム大学
- 多面的介入(FINGER):Lancetほか。ランセットPMC
- 聴力介入(ACHIEVE):NEJM/NIH系発表。PubMedAchieve Study
- 食事(MIND):RCTと観察研究。PMC神経学会
- 睡眠:AASM推奨。PMC
- 社会的孤立とリスク:Lancet Commission等。PMC
(ご自身の病歴・内服がある場合は、主治医と相談のうえ安全な範囲で調整してください。)
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