はじめに:見えない障害と向き合う日々
2019年11月17日、私の人生は一変しました。脳梗塞の発症により高次脳機能障害となり、失語症という状態に。さらに2020年7月7日にはてんかんの強直間代発作を経験し、計16回の発作を繰り返しました。この経験から、私は「見えない障害」と社会の間に存在する大きな溝を実感しました。
高次脳機能障害は外見からはわかりにくく、周囲からの理解を得ることが難しいです。この現実を変えたい―その思いから生まれたのが、5つの特許出願に結実した「支援メガネ」のアイデアです。今回は、私が開発したこれらの技術と、それがもたらす可能性について詳しく解説します。
1. 失語症支援メガネ(特願2023-177021)
コミュニケーションの壁を越える技術
失語症は、言語を理解したり表現したりする能力が損なわれる障害です。私自身、言葉がうまく出てこない、相手の言っていることが理解できないという苦しみを日常的に経験しています。
この特許は、メガネ型デバイスが音声をリアルタイムで文字化し、さらに内容を簡略化して表示する技術です。特徴的なのは、単なる文字変換ではなく、理解を助けるためのイラストを自動的に追加する点です。
例えば「りんごを食べたい」という音声が入力されると、文字表示とともにりんごの画像が表示される。これにより、言語処理が困難な人でも視覚的な手がかりを得て、コミュニケーションがスムーズになります。
技術的な革新点
- 音声認識と自然言語処理の統合
- 文脈に応じた適切なイラストの自動選択アルゴリズム
- ユーザーの理解レベルに応じた表示内容の調整機能
この技術は、失語症患者だけでなく、外国語学習者や聴覚障害者への応用も可能です。
2. てんかん発作予測メガネ(特願2023-177022)
発作の前兆をキャッチする wearable 技術
てんかん発作は突然起こるように見えますが、実は体温変化、睡眠パターン、薬の血中濃度などの微妙な変化が前兆として現れます。このメガネは、これらの生体信号を常時モニタリングし、発作リスクが高まると判断した場合に警告を発します。
私が15回の発作を経験する中で気づいたのは、発作前には必ず特定のパターンがあるということでした。この気づきを技術化したのがこの特許です。
予防的アプローチの核心
- 非侵襲的な体温センサー
- まばたきパターンから睡眠状態を推定するアルゴリズム
- 薬剤管理システムとの連動
- リスクが閾値を超えた場合の自動ブロック機構(危険な行動の予防)
この技術は、てんかん患者の生活の質を大幅に向上させる可能性を秘めています。
3. 慢性腎臓病管理メガネ(特願2024-109289)
食事管理の革命
慢性腎臓病(CKD)の患者にとって、タンパク質や塩分の摂取管理は極めて重要です。このメガネは、食事を画像認識し、栄養成分をリアルタイムで分析します。
特筆すべきは、単なる栄養分析ではなく、患者の現在の腎機能(ステージ)に応じて個別化されたアドバイスを提供する点です。ステージ3以下への進行を防ぐための具体的なガイダンスが得られます。
技術的特徴
- 食品画像からの栄養成分推定AI
- 患者ごとの許容量に基づくリアルタイムフィードバック
- 長期的な食事パターンの分析と改善提案
この技術は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病管理にも応用可能です。
4. 高次脳機能障害総合支援メガネ(特願2024-159644)
多様な症状に対応するオールインワンソリューション
高次脳機能障害は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害など多様な症状を呈します。このメガネは、これらの症状を包括的にサポートします。
特に画期的なのは、ウェルニッケ失語(理解の障害)とブローカ失語(表現の障害)に対して異なるアプローチを提供する点です。
多機能サポートシステム
- 記憶支援:場所や時間の記録・再生機能
- ウェルニッケ失語支援:音声の文字化+簡略化+イラスト化
- ブローカ失語支援:マルチモーダル入力(視線・ジェスチャーなど)からの文章生成
- 注意障害支援:重要な情報への注意喚起機能
このシステムは、脳損傷患者のリハビリテーションにも活用できる可能性があります。
5. SNN(Spiking Neural Network)簡易モデル(特願2025-019664)
脳機能のデジタルツイン
この特許は、脳の損傷部位をSpiking Neural Network(SNN)でモデル化し、健常者との比較を通じて機能回復を図るアプローチです。
SNNは、生体の神経回路の動作原理をより忠実に再現したニューラルネットワークで、脳機能のシミュレーションに適しています。
技術的核心
- 個別の脳損傷パターンに応じたカスタマイズモデル
- 損傷部位の詳細なシミュレーション
- リハビリ効果の予測と最適化
この技術は、神経科学研究や脳機能インターフェース開発にも貢献できる可能性を秘めています。