「ワクチン」と聞いて、なんとなく不安や怖さを感じる方は、少なくないのではないでしょうか。
この感覚は決して不自然なものではなく、そこには人間の心理と情報環境が深く関わっています。この記事では、なぜ私たちが「ワクチンは怖い」と感じてしまいがちなのか、その理由を整理し、よりバランスの取れた見方を考えてみたいと思います。
1. なぜ“怖い”と感じるのか? ~私たちの心の仕組み~
それは主に、次の2つの理由から説明できます。
① “目に見えない利益” と “目に見えるリスク”
- ワクチンの「利益」: それは「病気を予防する」という、未来で起きるかもしれないネガティブな出来事を、未然に防ぐことです。成功すれば、何も起きません。これはとても重要ですが、目に見えず、実感しにくい効果です。
- ワクチンの「リスク」: 一方で、副反応などの「リスク」は、ご家族の悲しみや個人の苦しみという、非常に具体的で感情に強く訴える形で報道されることがあります。
私たちの脳は、目立つ悲劇的な個別の事例(“あの人が苦しんでいる”)に強く反応し、一方で、目に見えない統計的な利益(“数万人の命が静かに救われている”)を実感するのが得意ではありません。
この心理的なバイアス(偏り)が、「利益」より「リスク」を大きく感じさせてしまう一因です。
② 情報の混乱
インターネットやSNSでは、科学的に証明されていない噂や、非常に個人的で極端な体験談が広がりやすくなっています。何が正しい情報なのか、信頼するべきなのか、判断が難しくなる環境にあることも、不安をあおる要因です。
2. 具体例:子宮頸がんワクチンから学ぶ「2つの視点」
この“感情とデータの乖離”を最も象徴する例の一つが、子宮頸がん(HPV)ワクチンです。この問題を整理するために、2つの異なる視点を比較してみましょう。

※日本では毎年、およそ1万人が子宮頸がんを発症し、約3,000人が亡くなっています。子宮頸がんの95%以上はHPVが原因とされ、現在主流の9価HPVワクチンを適切な時期に接種すれば、原因型の約90%を予防できるとされています。

3. まとめ:私たちにできること
- “怖い”という感情を否定しない: それは自然な自己防衛本能です。まずはその気持ちを受け入れましょう。
- 「感情」と「事実」を分けて考える: 心を揺さぶられる個人の体験談と、冷静なデータを示す科学的な事実は、別物です。両方の存在を認めた上で、判断の材料にしましょう。
- “ワクチンを打たないリスク”も考える: ワクチンのリスクだけに注目するのではなく、「ワクチンを打たないことで、その病気にかかるリスク」 も同時に天秤にかけることが、バランスの取れた判断につながります。
ワクチン接種は個人の選択です。その選択を、ただの“漠然とした不安”ではなく、“感情とデータを理解した上での決断” に近づけるための一助となれば幸いです。
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