~誰もが見過ごしてきた、社会変革の金鉱~
はじめに
私たちの社会には、“まだ誰も勝者になっていない”分野が存在します。ビジネスの世界では、それを「未開の市場(ブルーオーシャン)」と呼びますが、単に市場規模が大きいというだけでなく、社会の無関心・誤解・制度の未整備によって放置されてきた領域もまた、それに該当します。
そのひとつが、「高次脳機能障害」の世界です。
この言葉を聞いて、すぐにイメージできる人は少ないでしょう。しかし、実は日本全国に数十万人の当事者が存在し、支援を必要としながらも、声を上げることが難しいという、“静かなSOS”に満ちた領域なのです。
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳卒中・事故・脳腫瘍・てんかんなどによって脳に損傷が起き、記憶・注意・思考・言語・感情制御などの機能に支障が出る障害を指します。
見た目には障害が分からないことが多く、身体は元気そうに見えても、以下のような困難を抱えています。
- 会話がかみ合わない(失語症・理解力の低下)
- 記憶がすぐに飛ぶ(記憶障害)
- 注意が続かず、同じミスを繰り返す
- 感情が爆発したり、すぐ不安になったりする(情緒障害)
- 「段取り」が組めず、日常生活や仕事が成り立たない
特に、「ウェルニッケ失語」や「注意障害」「遂行機能障害」などは、周囲が“性格の問題”と誤解しやすいため、支援から取り残されやすいのが現実です。
なぜ「勝者なき市場」なのか?
1.社会の無関心と誤解
「高次脳機能障害」という言葉自体が、一般には知られていません。発達障害や認知症よりもさらにマイナーであり、当事者ですら“自分が何に困っているか分からない”ケースも多く見られます。
そのため、商品もサービスも、「誰に届ければいいか分からない」状態が続いています。つまり、誰も市場を確立できていない。勝者がいない、手付かずの領域なのです。
2.医療と福祉の“はざま”
リハビリは病院で行われますが、退院後の生活支援や就労支援は別の制度や窓口に引き継がれます。その連携がうまくいかず、「医療の外」に出た瞬間に、支援のネットワークが断ち切られるという問題が起きています。
この断絶が、企業によるサービス提供や製品開発の妨げになってきました。
3.テクノロジー未活用
AI、音声認識、VR、IoTなどの先端技術が発展しても、高次脳機能障害の現場ではほとんど活用されていません。理由はシンプルで、「誰が何に困っているか可視化できていない」から。
本来なら、音声によるコミュニケーション補助アプリや、VRを使った注意トレーニング、IoTでの生活支援などが可能なはずです。それでも、社会全体の理解が進まないために、ビジネスとして成立しづらい構造が残っているのです。
なぜ「未開の市場」なのか?
では、なぜこの分野を「未開」と呼ぶのか? それは、社会的ニーズが存在し、市場も確実に広がる余地があるからです。
● 潜在的なニーズの大きさ
- 脳卒中の後遺症 → 年間約12万人が新たに発症
- 交通事故や脳腫瘍などでも高次脳機能障害は生じる
- 65歳未満の若年層にも多い(働き盛りの障害)
それにも関わらず、支援アプリ、教育教材、ガイドブック、リハビリ機器、就労支援ツールなど、本格的に市場に出回っている製品はごくわずかです。
● 社会実装と連動できる分野
この領域の強みは、単なる営利活動にとどまらず、公的支援・福祉・教育との連携が期待できることです。
たとえば──
- 行政や自治体との連携による「評価システムの整備」
- 病院・大学・福祉施設との共同研究
- 国の助成金や制度設計に影響を与える提言
つまり、ビジネスでありながら、社会課題解決型の起業・特許戦略がとれる分野なのです。
どんなビジネスが可能か?
この分野に挑戦する価値があるとすれば、以下のような具体的アプローチが考えられます。
【1】コミュニケーション支援アプリ
- 音声認識×AI翻訳×視覚提示
- 失語症の方が意思を伝えやすくする「カスタマイズ可能な音声補助」
【2】生活・行動サポート
- IoT×センサーで「生活パターンの異常を通知」
- リマインダー機能や、作業段取りの自動案内
【3】リハビリ×VR/AR
- バーチャル空間で注意力や遂行機能のトレーニング
- 家族と一緒にできる「ゲーム形式」のリハビリ教材
【4】見える化×評価技術(特許対象)
- 認知機能の変化をAIでスコア化
- 「健常者には見えない困難」を数値化し、制度に反映
おわりに
「勝者なき市場」とは、必ずしも“儲からない市場”ではありません。むしろ、誰も本気で取り組んでこなかった市場です。そこには、必ず人の困りごとがあり、涙があり、しかし声にならない希望があります。
高次脳機能障害という見えにくい世界を、技術と想像力で照らす人が、これからの社会にとって最も重要な起業家・研究者・開発者になるかもしれません。
あなたの視点が、まだ誰も踏み込んでいない“未開のフロンティア”を切り拓くのです。
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